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青空書房の青空 ―羅漢さんのいる風景― 2

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 坂本さんは文学だけではなく、絵もプロ並みの腕前。

とくに一筆でサッと描かれた五百羅漢は見るものを優しい

気持ちにしてくれる。

「ときどき、京都の石峰寺へ五百羅漢に会いにいくんや。

「おーい、来たぞーと声かけたら五百羅漢が返事してくれ

るんや。もううるさいくらい羅漢さんの声が聞こえてな」

 そこで坂本さんは絵を一気に書き上げるのだそうだ。

「私が書いてると言うより、書かしてもろてる感じ」

 その手作りの画集を見せてもらう。どの羅漢さんも実に

いいお顔をしていて、お前の悩みなんかちっちやいもんや、

って語りかけてくれる。

坂本さんは吉川英治の「我以外皆我師也」ということばが

座右の銘だとおっしゃるが、自分の外の世界から謙虚に

何かを学ぼうとうする人だから、きっとこんな絵が描けるの

だろう。

 私もいつか、五百羅漢に会いに石峰寺に行きたいと思った。

でも、と思い直す。そうだ、この「青空書房」に座っている坂本さん

こそが私にとって羅漢さんなのだ、彼が羅漢さんそのものなのだと。

                                    (終)   
             
        あざみエージェント会員誌「あざみ通信」創刊号より

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青空書房 ―羅漢さんのいる風景― 1

さかもとです。

お付き合いのある出版社「あざみエージェント」さんの

会員誌「あざみ通信」の創刊号にわたしのことを書いて

くれたエッセイを紹介します。

****

青空書房は「天五中崎通り商店街」通称「おいでやす通り」にある

小さな古本屋だ。店主の坂本健一さんは、戦後まもなくこの場所で

本屋業を始めて、現在に至っている。

 坂本さんは小説家の田辺聖子氏・筒井康隆氏・山本一力氏と親交

があることは有名なので、ここでは詳しくは書かない。ただその縁が

続いているのは、やはり坂本さんのお人柄と文学への衰え知らぬ

情熱によるところが大きい。

「商品としての本に惚れ込んでいる本屋はいっぱいおるけど、本そ

のものに惚れ込んでいる本屋は私だけ」との自負も誰もが認める

所だ。「この前も、百円なら買うてやってもええな、と言うた女性が

いたんで、私こういさめたんです」と彼は教えてくれた。

「百円なら買うてやってもええな、と思うんなら買わんといて

ください。本はあなたの声を聞いてますよ。悲しんでますよっ、

てね」 そのご婦人は坂本さんに謝って、本を買って帰った

そうだ。きっと彼女はもう「百円の本」というレッテルをその本

に貼ったりせず、書かれている内容で本を評価してくれるに

ちがいない、そう思った。

 そんな具合で、「青空書房」の客は古本を買いに来るとい

うより、坂本さんに会って話を聞いたり、時には説教されたり、

そんな「坂本じるしの本」を買いに来るのである。

 本は自分でしゃべれないし、本棚でじっとしているだけ。

けれど、坂本さんの「あ、その本面白かったよ」という一言で

本は俄然存在感を増し、客にとって特別なものとなる。

彼は客の顔を見ただけで、どんな本を探しているのかだいたい

見当がつくそうだ。しかも自分の店の本のことは全部把握して

いる。人と本を出会わせる達人なのである。                          
                                    (続く)
       あざみエージェント会員誌「あざみ通信」創刊号より

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